10月4日、準々決勝。対するは松蔭高校。リーグでの勝利はあくまでもリーグでの出来事。トーナメントの厳しさ、難しさは完全に別物である。気迫が無かったわけではない。緊張感も大いに感じつつ試合に入った。ことごとく跳ね返された攻撃は松蔭のリベンジに賭ける気持ちに圧されたところが大きかったと認めるしかない。本当に素晴らしい戦う姿勢であったと思う。前半は17分れおなのクロスに合わせたしおりの1得点のみ。前半終了間際にはスローインからサイドをえぐられ失点。1-1で前半を終えた。後半も重苦しい試合展開。常に攻撃し続けるもやはりネットを揺らさなければこういう展開になる。そんなストレスの溜まる後半9分、サイドバックのみやが攻撃的なポジションを取る。目の前にこぼれてきたボールをインステップ一蹴。30mを超える距離から放たれたライナー性のボールはゴール右上に文字通り突き刺さった。華奢な体のどこにそんな力があるのか、会場中がどよめくゴールであった。2-1。これで一気に楽になった。しかし得点は相変わらず積み重ねられない。それでも21分、28分にしおりが連続ゴールを決め、4-1。勝利を決定的にしたものの最後までちぐはぐさが否めない戦いぶりだった。
試合後、マイクロバス乗車前に短い時間で試合寸評。詳細な内容はここでは書かないが、一言でいうならば今季ワーストと言っていいレベルの試合内容だったと評した。無論、先に述べたように得点シーンには目を見張るほどの素晴らしさや成長を感じさせられた。松蔭はリーグ戦から見事に立て直してきたし、アンガクもそれぞれが熱心にプレーした。ただ、チームとして…3年も2年も1年も…これほどまでに歯車が噛み合わない試合も本当に久しぶりだった。
そして帰りの車内での1時間、多くの課題と本気で向き合おうとしなかった部全体の空気が…私を怒髪天に達しさせた。
7時ごろ、安城学園に到着。そこから延々1時間、怒り倒した。
大会や時期によって、気が付くと自発的に、あるいは無自覚的にチームのためのキーワードというものが発生してくる。その一言をポンッと出すだけでチーム全体が同じイメージを共有できるようになる、まるで手品のような言葉と言っていいかもしれない。心の拠りどころ、とでも言おうか。いずれにしてもそういう言葉を醸成しうる環境を作り出すのも、また指導者の役割だとも考えている。
今シーズンに入り経験値の高い選手に頼りがちな時期があった。中心選手はもちろん必要な存在だが依存しすぎればチームとしての成長のブレーキに成りかねない。全員が自身の役割を全うすることがチームスポーツの醍醐味でもある。『歯車』という言葉がキーワードになった。
負けたら引退…。そういう覚悟があっただろうか。その圧迫感から逃げていなかったか。勝って良かったという安堵感だけに包まれて、前に進めると甘えていなかったか。試合に挑む心構えはどうだったか。試合中に局面的敗北を淡白に受け入れ勝手に戦いを放棄しなかったか。何より…独りで戦っていなかったか、先輩後輩含めた仲間の存在を感じてプレーしていたのか。
指摘されて我に返り悔しさのあまり涙を流す者、仲間と駅まで歩きながらここまでの経験を振り返る者、自分の甘さに嫌気がさし翌朝にグループミーティングをした者…。こうして最後のキーワード『覚悟』がチームのものになっていく。
10/12、オフ返上で改めて緊急ミーティング。各自決意表明。
10/13から16まで、自分たちを取り戻すべく練習。甘えは一切無し。総体直後から取り組む走り込みに妥協する選手は1人もいない。ただただ、やり切った。
17日、準決勝。対するは同朋。これまでの結果は勝利しているものの、気を緩めていいほどの差は全くない。そのことは部員一同の表情と動きで全て伝わる。この一週間で、緩みは完全に排除できた。試合前アップの様子で確信する。本当に素晴らしい、決意したチームに生まれ変わった。
キックオフから攻撃的。互いのコミュニケーションもいい。サイドと中央をバランスよく攻めたてた。先制は前半12分。アウトサイドから展開し、しおりが決めた。1-0。前半終了。
後半に入っても油断はなかった。それは断言できる。しかし前半決めきれなかったシーンがあとから自分たちへのプレッシャーとなってくる。後半9分直接FK、同13分CKのこぼれを詰められ連続失点。あっという間にひっくり返された。1-2。
今大会初の延長に突入。延長前半2分、速攻に対応出来ず失点。しかしまだ十分時間は残っている。満身創痍の疲労でも全く走力を緩めないアンガク。むしろ1本のダッシュ距離は上がっていたのではないか。対する同朋もとにかく大きなクリアを心がける徹底ぶり。延長後半に入って一層攻撃のテンポを上げる。何度も何度も相手ペナルティーエリアに侵入を図り、枚数を増やし、次の1点を全員で取りにいく。サイドからのクロスも回数を重ねるごとに精度を上げる。ひたすらゴールを目指して迷いはなかった。そして…タイムアップ。
整列の時点で涙を我慢できた者はいなかった。それでも気丈に振る舞い、審判団や本部への挨拶に動く。でも…応援に来てくれた保護者やOG、学校関係者の姿を見ると…もう立っていることすら、出来なかった。膝から崩れ落ちた。心から出し切った。チーム全員で全く諦めなかった。しかし勝利を手に出来なかった。この悔しさをどうしても消化できない…。泣き崩れるメンバーを励まし、なぐさめ、必死で支えたのはマネージャーと控え選手たち。しかしその目にもやはり溢れんばかりの涙があった。
数分後か…数十分後か…グランドの片隅で。まだ涙は暮れない。
「よくこの一週間でチーム全員が立ち直った…3年間の努力は全く無駄ではなかった。本当に素晴らしかった。1年生も2年生も数人ずつが出場したがそれぞれ学年を代表してよく戦った。3年生は…最高だった。下手くそ集団がよくぞここまで…。ユニホームの左袖にはAICHIと入っている。みんなが愛知県を代表するようなチームにしてくれた。全て3年生のお蔭…本当は東海のステージに連れて行ってやりたかったが…。やはり東海に行くのは…苦労するね…」
翌10/12。オフ。私は目が覚めて、会場だった名古屋経済大学へ。ピッチではカピタが全国に向けて練習再開。見守る多田先生にそっと近寄ると、珍しく少し驚いた様子、でもすぐに「あれ?生徒たちは?もしかして独り?(笑)」とおどけてくれる。すぐに三壁さん(名経大監督)も「あれ?ナカノ先生、トレシューじゃないじゃん!サンダルじゃん(笑)」と気持ちをほぐしてくれる。本当にサイテーな2人である(笑)。いやいや…真面目な話…多くを語らずも多くを感じ取ってくれる人に…本当に救われた。いつの間にか馴染みになってしまったカピタの保護者さんとも遭遇。やはり話題は昨日の試合に。気が付けば私以上にアンガクの良さを語って頂いてしまった(苦笑)。
翌日以降、部員も少しずつだが笑顔と元気が戻ってきた。無論、悔しさは忘れられないし正直言えばプレーする心持ちでは無いかもしれない。しかしそれをグッと押し殺して〝前を向こう。〟…そういう気持ちが一瞬一瞬の表情やしぐさ、立ち居振る舞いでとても伝わる。私も部員に負けるわけにはいかない。去るべき時期が見えてしまった3年生にさえ、相変わらず容赦なく厳しく指導する。そして3年生もそれに必死で応える。悪くない、これがアンガクだ。ただ…本当に必死で取り組む走り込みの姿だけは…さすがにちょっと泣ける。ここに来て、これほどの全力。こんなチーム…そうそう無いんじゃないかな。
そういえば。準決帰りのバスの中、チームで新しいチャレンジを掲げた。「先輩を先輩と呼ばないようにしよう!」。ピッチ上で〝~~センパイ〟はちょっと言いにくい。さんづけ、ちゃんづけでいこう。先輩を呼び捨てしたら…あとで謝罪(笑)。~~先輩と呼んだら…バツはうまい棒。このチャレンジだけで、少し笑顔が増えた。さすがアンガク(笑)。そしてシード順決定戦に向けた今週早々、さっそく目上に「~~さん!」と呼ぶ姿が安城多目的グランドにあった。
さあ、残る2試合(←なぜ2試合なのかは今月のPart2で)。ラスト、ワンプレーまで成長するぞ!