端から見て可能性が低いと思われていても、本気で一位を目指した。考えうる準備をし、まだまだ微力なチームながらコツコツと目一杯努力した。結果は準優勝。新人戦だけで言えば2年連続。これで県内の高校タイトルで5つ目の2等賞である(昨年度2014年度の県高校リーグ1部と新人戦。今年度2015年度の総体と県高校リーグ1部と新人戦)。創部10年、県優勝はまだ果たせていない。高体連トーナメントで3回進出した決勝では全てカピタニオに0-3。優勝こそまだ遠いが、ある意味では胸を張って受け止めるべき成績だとも思う。しかし、ある意味では悔しさが深く大きく心に沁み入る。チームは部員間でサッカー経験値の差こそあれ時間の経過とともに学年問わず仲間意識を育んでいる。その上でいつの間にか勝利を積み重ねることが前提のような精神的プレッシャーですら潔く受け入れている。何とかしてそれを昇華させたい。その一心で今回も全員が取り組んできた。厚くて高い壁に今回も屈したが、悔しい気持ちを前向きなエネルギーに変えるには…やはり振り返らなくてはいけない…。
6日、準々決勝。名古屋経済大学の素晴らしいピッチにベスト8が集まった。対戦は南山。11月に3年生が引退した後、真っ先に対戦した相手だ。その時(県高校リーグ)は2-2ドロー。そして東海プリンセスリーグでは2-3で敗れた相手。つまり今のチームになってからは未勝利の対戦相手ということになる。新人戦に入ってからも高いモチベーションは維持していて〝愛知の熱血漢〟梅さんのチームは隙無く仕上がっているのは間違いない。対するアンガク部員たちもその辺はとても高い意識で捉えていたようで油断は全くなし。大切なのは自分たちのストロングポイントを明確にし表現することだとだけ確認し、ピッチに送り出す。〝いかにして、どの時間帯で得点を奪えるか〟が大きな意味を持つと踏んだこの試合、幸いにも前半11分CKでれおなのキックにしおりがドンピシャで先制ゴールに成功。26分には左からのクロスに南山守備陣の粘りに難しい局面になりながらもゴール前に詰めたしおりが上手く入れ替わって最後はれおなが押し込む。前半を2-0で終え、戦い方に確信を持って後半へ。後半も同じく11分、アウトサイドを駆け上がったれおなのセンタリングにしおりのヘッド。このゴールは完璧だった。会場中が沸く。3-0。ただ、県外遠征を含めこれまで以上の充実ぶりに目を見張る南山がこのまま終わるわけはない。過去の南山に比べるとボールの動かし方こそ変化はあれど個性あふれるボールタッチは揺らぎがない。対応し切れない場面も多々あった。結果、意図せずファールをしてしまう。そんな中、後半27分に直接FKを叩き込まれてしまう。ともに切磋琢磨しあう対戦チームの底力を見せつけられた思いがした。なおアンガクも帰りのバスミーティングでは過去最高回数に匹敵?するほどビデオを何度も見返し、セットプレー時の守備を検証。まさに海より深い大反省会であった。さて話をゲームに戻す。後半33分、ついにその時が来た。勝利が確信に変わり始めたこの時間帯、それでも攻撃の手を緩めないアンガク。右サイドからPAに思い切って侵入したみさきが右足一閃。チーム4点目は待ちに待ったみさきの公式戦初ゴール。思いの詰まった瞬間にこの日1番大きい歓喜の輪が広がった。さらにその1分後、この日ハットトリックとなるしおりのゴールで5-1。その直後、ホイッスル。このチームになってから幾度も壁となって成長の糧となった南山。その素晴らしい好敵手に苦しみながらも勝利することが出来た。一息つくと、これで引退するという南山2年生部員たちへのエールを送りたくなる。試合後、溢れる涙のまま力強く握手をしてくれたエース7番…間違いなく五分以上にやられた数々のマッチアップ…その全てが今も鮮やかに浮かび上がる。
翌日7日。準決勝、対同朋。会場は名経大。あの、高校選手権準決勝と同会場、同カード。部全体の気持ちの昂ぶりはこちらが少し抑えなければならないほどであった。全員の思いが結束し、緊張を起爆剤に変えた瞬間。こういうモチベーションが準備出来れば、ベンチの仕事は何も無い。キックオフから攻勢を仕掛ける。必然というべきか、一見50:50になるかなというシーンはことごとく拾い続けることに成功。コンディションの悪さを感じさせない出足を見せるはるかを中心としたMF陣に頼もしさを感じた。前半2分、猛攻の口火を切ったのは右サイドから中央に流れ込んだりか。持ち込んで逆サイドに展開。待ち受けるれおなが叩き込んで先制。11分にはCKからあけみに渡り、つないだ先にいたのはしおり。2-0。18分には再びりかが持ち込み、決めきったのはれおな。前半を3-0で折り返す見事な展開。
後半も気持ちを込めた時間が続く。後半5分には連続したクロス攻撃。気迫あふれる同朋DFに何度も跳ね返されるなか、力づくと言っていいほど執拗にセンタリングを放り込む。するとあかねが放り込んだ何度目かのボールにれおながヘディングで反応。これでハットトリック達成。4-0。15分、中盤の支配を強化しようとれおなが一列引く。それに呼応するかのようにMFななかがスルスルと前線にポジション移動。この瞬間、ある意味この場面に関しての勝負は決まっていたのかもしれない。ボールはスムーズに中央へ。チャンスを窺っていたしおりの足元に展開。この日2点目となるフィニッシュ。その後も成長を感じさせる試合運びのままホイッスル。5-0。前回延長で押し込み続けながらも涙を飲んだ相手に対し見事な内容。〝今度こそは勝たなくてはいけない〟というプレッシャーとも戦い続けた面々も、まずはここまで来たぞと安堵の表情。年明け早々の伊勢遠征で掲げたチーム目標にひとまず到達。とうとう決勝にコマを進めた。
13日、決勝。刈谷ウエーブスタジアムの天然芝に映える赤黒と黄黒のウエアカラーが出揃った。会場前から続々と集まる観客に、緊張と気持ちが改めて高まる。応援に駆けつけてくれた先生方、部員の保護者、卒業間近の3年生、部員の同級生の姿も見える。運営サポートに協力してくれた一宮商業、椙山女学園、南山部員に謝意を伝え、ウォーミングアップ開始。1年前、初めて決勝に立ったときは口から心臓が飛び出るような過緊張のまま試合に入った気がするが 、それに比べれば少々マシかな…という印象。
前半キックオフからカピタニオの攻勢にたじろぐアンガク。リアクションで応戦するのが精一杯。それでも何とかこらえ続けるが速攻から裏を取られ、先制を許す。普段ならここで一気に反骨心が発揮できるのだが、この日は何故か自信なさげな空気を醸し出す。必然、大切なところでチェックが遅れ、PA侵入をあっさり許し、追加点献上。
前半早々の失速は私のプランミスに原因があった。決勝に至るまで白星を重ねたのはプレー選択の優先順位一位として自分たちのストロングポイントを表現し続けた結果であった。私はそのことを忘れ、カピタニオの素晴らしさを受け止め過ぎて…どう対応するべきかというところに主眼を置いてしまった。部員の戦術的理解と表現力は増している。それゆえ戦術的ミスが露わになった。失敗したのは私でありピッチに立つ11人は何も失敗していない。とにかく前半35分間、カピタニオの上手さと速さを前にしても必死で応戦し続けたのだ。
0-2でハーフタイム。プランミスを明確にしたあと、ストロングポイントを表現するためのポジション修正、プレー中に修正しきれなかったことへの善後策を講じた後、前を向くためのメンタリティーを呼び起こす。
「前半を振り返ると…自分たちの目の間に武器を持つ相手がいるわけだ…その武器は磨き抜かれた、素晴らしい武器で…みんなはその相手のことが…いつの間にか怖くなって、背中を向けて逃げてないか?…でも背中を向けて走っていたら、いつ攻撃されたか気付けない…その方が怖くないか?…目の前の相手は磨きぬいた素晴らしい武器を持っている…で、その武器は逃げれば逃げるほど、離れれば離れるほど威力を発揮する…ということは、こっちから思い切って寄せることで何か状況が変わるんじゃないか?…振り回すことも出来ない、落ち着いて狙いを定めることも出来ない…そんな状況を作り出せないか?」ここまで話すと表情に生気が戻り、頷く顔も増える。「後半は全く逆のことをしよう。時間と空間を与えるな。絶対に怯むな。そうすれば全員で、交代メンバーを含めて、最後の瞬間まで諦めずに戦える。先生はそう確信している。…さあ、いこう!!」。やる気スイッチ、発動成功(笑)。何より、戦う目になった。
後半の戦い方は前半のそれとは全く異なり、随所にチャレンジ精神を表現することが出来た。それでも一瞬の隙を突かれ決定的な3失点目を喫す。しかし諦めない。時間の経過とともにゴールマウスに近づくシーンが徐々にではあるが増えてきた。交代出場の2年生も流れに乗る。GKとの1対1…オフサイド判定のシーン…CBも意地で上がった終了間際のコーナーキック…いずれの場面もどっちに転んでもおかしくないような決定的シーン。ただ〝カピタがカピタである所以〟は、それでも大ケガに繋げないところだと思う。カピタ側から見ればアクシデントを『ヒヤッとした』程度で終わらせる力、とでも言おうか。対戦することでしか味わえない力強さ…したたかさ…強者たる理由…ここに少しでも追いついていきたい…。
試合終了。0-3。3度目の同スコアには少し腹を立てながら(笑)、それでも戦うごとに手応えを感じる内容的成長と、後半に自分たちを取り戻した部員を誇りに思う。苦しいけれど下を向いていては壁の高さをみることは出来ない。顔を上げ、春の戦いに向かっていこう。