10期生にとって、残された試合は2つ。
10月17日、シード順決定戦。前回総体抽選の顧問会議などにおける話し合いの中で〝準決敗退の両チームが第3位。ただし次大会の第3シードと第4シードを決定する試合を実施する〟と結論が出て名称が変更された。対するはすでに実力校の風格すら感じさせる至学館。部員、スタッフ、応援保護者、すべて心からリスペクト出来る、素晴らしいチーム。期せずして一年前の三決と同カードとなった。
前半11分、凡ミスで献上した直接FK。PA手前、中央で与えたチャンスを見逃すような相手ではない。一度は跳ね返すもののこぼれを力強く押し込まれ先制を許す。0-1。しかし焦らず攻勢を仕掛けた26分、今度は逆にFKのチャンス。高校からサッカーを始めたとは思えない精度を誇るキッカーあやから放たれたボールは綺麗な弧を描き、逆サイドで待つれおなの足元へ。1―1。前半の内に振り出しに戻すことに成功。
前向きな気持ちがあるいは空回りしたのか…後半1分、再び痛恨のファール。場所はアウトサイド。GKまいまいが構えるゴールからは相当遠い距離だったが、至学館の思いが詰まったロングボールはこれ以上ない軌道でゴールに向かってきた。処理を一瞬躊躇したボールは転々と逆サイドまで。大切な試合だからこそミスは生まれ、その印象は脳裏に焼き付く。1-2。再び追いかける展開。ただ、不思議と焦りは無い。これが自分たちを信じる力と言うものなのか…。9分、明確な狙いをもってPAに放り込んだセンタリングからPKを獲得。託されたしおりが3年生の思いを胸にキッチリ蹴り込む。2-2。再び振り出しに戻す。後半の半ば過ぎから、やはり走り込んだ時間の積み重ねがチームに力を与えてくれたように感じる。24分にれおな、そして27分にしおりが決めた。ホイッスル。4-2、第3シード権獲得。こうしてアンガクの高校選手権が…終わった。
試合後、少し間をおいて至学館部員と互いを認め合うひととき。互いの表情は大会ラストゲームをこの相手と出来たことに対する安堵感だったのかもしれない。笑顔溢れる写真と、ふざけあう会話の時間が両チーム3年生が経験した時間の意義深さを物語っている気がした。
でも…もう一試合残っている。最後の最後に大切な一戦。vs聖カピタニオ女子。
準決敗退後、数日経って多田先生からの電話。粋な計らいに電話口で不覚にも泣きそうになってしまった。すぐ部員に伝えると、誰もが最後の最後にカピタにチャレンジしたいと即座の回答。そして、10期生にとってのラストマッチはチャンピオンとの真剣勝負に決まった。
この試合は…いろいろな意味合いがあった。カピタにとって全国を決める東海大会直前、最終調整。今年度、常に県ファイナルで対戦してきた2チームのラストマッチ。アンガク10期生にとって最後の挑戦…。両チームの応援保護者の数と風に揺れるフラッグが両チームの気持ちを高めてくれる。
東海を想定した前後半80分。持ち味を表現し尽くしたゲームは、時間の経過とともに互いの選手が心底認め合う内容にまで昇華したと思う。とにかく好ゲーム。最後にして最高の試合が、そこにあった。
戦いを終え健闘をたたえ合う両チームが向かい合ったあと、カピタからサプライズ演出。ショートコントで場を和ませてくれ、贈られたのは本当に手の込んだプレゼント。何より驚いたのはアンガク3年生9人の名前を一人ずつ呼んでエールを送ってくれたこと。目標にしてきたけど…結局追い付くことは出来なかったけれど…それでも同じピッチに立つ仲間として認め合えることの幸せ…。またカピタから教わった。
帰りのバスは年に一度のラジオ故障日(笑)。運転手を寝させまいと大合唱が始まった。最後に笑って、揃って帰れて…また楽しい思い出が一つ増えた。
10月27日、新チーム始動。28日、さよならミーティング。
9人全員が思いを噛みしめながら、後輩にメッセージを送り、共に歩んだ10期生に感謝を伝える。各自が持参したタオルはもう…ぐちゃぐちゃ。
高校からサッカーを始めたとは思えない成長を遂げた喜依乃は中盤で絶対的な存在になった。不在時、チームに漂う不安感はその存在の大きさと比例した。心も体も弱かったみやはいつの間にかタフで攻撃的なSBとして左サイドを縦横無尽に駆け巡った。練習で積み重ねた力を発揮したあのロングシュートは…1点以上の価値があった。心技体の心の部分で存在感を輝かせたのは愛彩。先輩を目標にし続けたその姿で、後輩を見事に育ててくれた。責任あるポジションを任せて本当に正解だった。柔らかいボールタッチと意外性のあるプレーでいつも沸かせてくれたのはほのか。ほぼすべてのポジションに取り組んでもらったのは秘めた可能性にかける期待が大きかったから。サッカー人生の終盤、磨いた左足で成長を感じさせたのは真奈美。後輩からもずいぶん愛されていた。ピッチに立つことの大切さを後輩に一番教えてくれたのかもしれない。最終ラインの危機を幾度も救ったのが舞子。最後尾で仲間を鼓舞し続ける声に何度励まされたことか。サッカーが自身を成長させてくれると信じ続けた。涙の量が強さにつながったとしか言いようがない。ディフェンシブなポジションで常に躍動したのが友香。本気でファイトするその姿にチームは引っ張られて成長を遂げた。松葉杖を置き、最後の最後にピッチに戻った雄姿は全員が待ち望んだものだった。途中入部を感じさせないマネジメントを発揮したのが優乃。部員のコンディショニングのために全身全霊を傾けてくれたことがアクシデントを最小限に抑えることにつながった。10期生が引退した今も「もう少しだけ…」と言って後輩をサポートし続けてくれるその心には感謝してもし切れない。そして…10代目主将、幸生。数えきれない苦労も…仲間と掴んだ栄光も…幸生がいたからすべてを分かち合えた、誇るべき存在。毎日積み重ねた、ひたむきにトレーニングに励む姿と自己犠牲を顧みない心は10期生の象徴だった。確信をもって言えるのは、幸生がいたから10期生がここまで頑張れた、ということ。
「3年生…10期生のみんな、高校サッカー人生…良く頑張りました。
残す高校生活を目一杯楽しんで!そしてまたグランドで会いましょう!
本当にお疲れさん!ありがとう!!」優しい♪中野先生♪より