朝夕の急な冷え込みを感じるようになった10月末。ふとした時に、ここまでみんなで過ごしてきたことに思いを巡らし、改めて全ての時間をいとおしく思う。高校選手権、開幕。
10月4日、予選リーグ初戦、対南山。梅垣先生と接するといつも思う。「この男はいったいどこまで貪欲なんだ?」と(笑)。口癖は「南山のサッカーで…いつか必ずカピタに勝ちたい…アンガクには絶対に負けない…」。毎年関東に出向いては武者修行のようなマッチメークをし、部員には人としての成長を求め続ける。今夏には中学生年代のいずれ羨望の的になるであろう小牧カップなる大会を文字通りゼロから立ち上げ全国から名だたるチームを集めきった。今では完全に根付いた愛知県高校リーグの運営もこの男無しには到底語れない。中高一貫のメリットと難しさを正面から受け止め、それでもやれることはまだあると大見得を切って今日もグランドに現れる。そんな〝愛知の海老蔵〟に率いられる南山は、これまた素晴らしい部員ばかり。チームとしての関わりも深く、思い出されるのは幾度となく苦労した試合ばかり。
初戦の硬さがみられるかな…との不安も束の間、成長した姿を表現できたことを嬉しく思う。前半から支配力を強めて勝負は後半。きゃらのミドルで溜飲を下げ、一年次の新人戦以来(そのときも南山戦だった!)の公式戦得点となったちはるの直接フリーキックで勝負を決した。2-0。相変わらず簡単な試合ではなかったがそれでも南山相手に無失点。チームでの約束事を理解した上で実践出来た、守備面を評価したい一戦。
10月12日、第二戦は対金城学院。南山にPKの末、勝利を収めている金城との一戦は負けなければ予選リーグ1位確定という大事な試合。前回大会(県総体)でも対戦したが中心選手の能力の高さがずば抜けていることは明白。最近ではそれだけではなく最後まで諦めずに戦い続けるメンタリティーも確固たるものになっていると、対戦相手ながら劇的な変化を感じている。すべては白井先生の寄り添う力に他ならない。
スコアは2PKを含む10得点。はるかとふたかなが揃ってハットトリックを達成し、ほのか、しおり、歩美、千陽もそれぞれに持ち味を発揮したフィニッシュを披露。交代出場枠もすべて使い切った上での10-0。この勝利で予選リーグ1位抜けを果たした。すべては部員の奮起の賜物である。
10月26日、決勝トーナメント準々決勝、対同朋。クラブチーム出身の有力選手を複数擁し、2部リーグ所属ながら1部中位以上に入るであろう戦力を有するチーム。特に得点力は抜群。市邨との、互いに持ち味を存分に発揮したグッドゲームを制してベスト8に進出してきた。公式戦での対戦歴は偶然にも全く無い。初顔合わせであり手探り感は否めない。
負けたら終わり、の決勝トーナメント。準々決勝で負けるわけにいかない…高校リーグ1部2位の自分たちがここで負けてはいけない…。部員それぞれが不安に押しつぶされるような2週間だったかもしれない。毎日の表情、ちょっとした空気感で何となく伝わってくる。もちろん、そういう私も正直言うといろいろ考えてしまう時もあった。そんな時にふと思い出すのはやっぱり多田先生との会話。ずいぶん前に話した事。「大事な試合、大事な大会は…まずは3年生を信じることだよ…良いことも良くないことも一番たくさん経験してきてるんだから…もちろん上手下手はあるけれど、それはあくまで技術的な部分のことだろ?…やっぱり、最後に気持ちを見せてくれる3年生を、俺は信じるよ…」。なぜだろう、このときの会話を思い出すと準々決勝に向けての、自分自身の中にある不安感がスーッと…まるで憑き物が落ちていくかのように無くなる。落ち着く。だから、今度は私が部員の…3年生の不安を受け止めてやらなくてはならない。キックオフまでに、完全にポジティブな集団にしなくてはいけない。それが私の仕事である。
前半13分、はるかからのスルーパスでほのかがアウトサイドから抜けだす。これまでの、不安感に塗れた顔つきはもうそこに無かった。獲物を射止めるようにGKとの1対1を鼻先で制す。1-0。その後も時間の経過とともに支配するシーンは増えた。2度ほどビッグチャンスを生み出すも、モノに出来ず。ハーフタイムで攻守の要点を簡単に伝え後半のピッチへ。後半も前半ほどではないが中盤が機能。後半11分、押し込んだ局面でしおりが恐らく人生初となるミドルシュートを決めた。2-0。入学直後から自身の弱点に本気で向き合い取り組んだ成果であり、決して入部までの経験値だけで勝負しないアンガクらしさが詰まった得点であったとも思う。だから、得点後にああやって全員で喜び合えたのではないだろうか。出来なかったことが出来るようになる喜び、のようなものがウチにはあるなぁ…と手前味噌ながら思う。さらに後半22分、しおりがボール奪取から3人抜いて見事なスルーパス。それを完全に予測していた動きを見せたのはきゃら。サイドが主戦場ながら、ゴールに結びつく動き出しに磨きをかけた。その力が見事に表現できた。3-0。ただ、残る13分間をシャットアウト出来なかったことは次への課題でもある。相手中心選手に、それまで許さなかった突破をさせてしまった。今大会初失点。同朋の、わずかなミスを見逃さない力は素直に認めるべきだ。そして試合終了。難しい時間帯もあったが3-1。積み重ねたものをこの試合でも表現できたと思う。これで準決勝進出。2大会連続でベスト4以上確定。
さて。
またトレーニングだ。楽しみ楽しみ(笑)。