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顧問の独り言 2014年5月号

予選リーグ。

5月3日。総体予選リーグ第2節。〝同志〟林先生率いる市邨との対戦。数字上では引き分けになった時点でリーグ首位確定。とはいえそんなことを選手に言う必要もなく、勝利を目指すことだけを考えピッチに送り出す。
ゲーム展開は想定内の支配率。しかし主力を守備の中心に据えて、安城学園の攻撃を真っ向から受け止めて、そして極めてシンプルにいなしてくる市邨の戦術にしっかりとハマってしまう。前半をスコアレスで終え、ベンチでは「ここまでは市邨側のプラン通り。間違いなく後半のどこかで前掛かりになって点を取りに来るはず。そこを見逃すな。」といって後半に送り出す。
それにしても市邨は新1年生の成長が著しい。やるべきこと、やれることを明確にするだけでここまでチームに貢献できるのか。もちろん、それを支える主力の3年と2年も素晴らしいが、1年生の気力は見事であった。勝負の相手とはいえ、心はいつも仲間である。そういう意味でいうと初心者の育成に関して林市邨から学ばなければならないと強く思う。
ゲームは後半もゴールネットを揺らすことが出来ない時間が続く。今後の試合も考えサイドの突破にこだわったがそれも結果的には私のプランミスだったのかもしれない。
60分終え、スコアレスドロー。林先生の〝引き分けの美学〟にやられた格好になってしまった。ちなみにグランド外で林先生とサッカー談義をするとミクロからマクロまで様々な話題に触手が伸びる。その中でスコアレスにもっていく難しさが話題に上がったことも当然ある。その時の一言二言が脳裏をよぎる。
PK戦に突入する直前、ベンチ前に集まる選手たち。この時点で首位突破が決まったことを伝えると全員笑顔で拍手。その後、いつもと異なるキッカーを順序も変えて5人チョイス。見事に5人全員が狙ったコースに決め、相手に少々のプレッシャーを与えることになったか。控えGKあんの活躍もあり、PK戦勝利を収めることになった。

決勝トーナメント。

6日、決勝トーナメント1回戦。対するは松蔭高校。心の師と仰ぐ川端先生に加え、今年度からあの中西先生もチームに加わった。ある意味、部員よりも私の方が対戦相手を意識していたかもしれない。
試合内容は松蔭前線のスピード感ある展開をボランチの運動量で未然に防ぐことが出来たのが大きかった。この時点で安城学園の最終ラインを良い形で突破されるリスクは格段に減少、あとはゲームの支配を進め、決定機にゴールネットを揺らすことができるかどうか、が焦点。動いたのは前半。試合開始から恐らく2度目のサイド突破。サイドではマッチアップ、ゴール前では枚数的にも体格的にも不利な状態。しかしトップスピードに乗ったきゃらは素晴らしいセンタリングを上げ、ポジショニングの妙で完全にフリーになったしおりがドンピシャ。1-0。これで試合を優位に運ぶことになった。
追加点が取れないまま時間は進み、後半ラストプレーの様相。ここでバックパスをインターセプトされるという大きなミスを犯す。鍛えられた松蔭がそんなミスを見逃すはずもなくあっという間にゴール前に詰め寄られる。悲鳴にも似た歓声がボリュームを上げた次の瞬間、大怪我から回復を遂げたあだまがこれ以上ないポジショニングで全く隙を見せないセービング。最大のピンチを防いだ。胸をなでおろした直後、試合終了のホイッスル。楽に勝てるとは全く思っていなかったが、それにしても追加点をとっておけばここまでヒヤヒヤすることもなかったのに…という結末。とはいえ、これで準々決勝進出。次の相手は東三河の雄、時習館高校。リベンジするには最高の舞台が整った。

11日、準々決勝。対時習館高校。昨年度県高校2部を圧倒的な強さで全勝優勝、今年度から1部入りする強豪であり、高体連の大会ではここ数回連続してベスト4入りを果たすほどの力量あるチームである。率いるは金田先生。私が指導者人生を歩み始めた当時、全ての指針を教えてくださった方であり、県下の指導者で金田先生を知らぬ者はいないほどの方である。安城学園にとっては昨年度の新人戦準々決勝ではワンチャンスを決められ0-1で敗れ、前回の高校選手権では予選リーグでPK負けを喫した相手である。それだけに選手のモチベーションも相当高い。
キックオフ直後から一進一退の攻防。まるで台風前の静けさのようだ。小さな波が往来するうちに、時折大きな波が打ち寄せる。もちろん安城学園も攻撃の手を緩めない。先手を取ったのは安城学園。連続したコーナーキックからトレーニング通りアイデア豊富にかき回す。するとあゆみ渾身のキックは相手GKの頭上を越え、若干のリフレクトがありながらもゴールに吸い込まれた。1-0。待望の先制。
集中を切らすことなく前半はすでにロスタイム。掲示された時間を越した直後だった。隙があったとは思わない。しかし役割がその瞬間だけ不明確になってしまった。まるで新人戦での失点シーンを巻き戻ししたかのようなフワッとしたシュートを決められてしまった。1-1。直後、前半終了。

勝負の綾(あや)はどこに潜んでいるか、分からない。だいたいの場合、それは試合が終わってから気付くことになる。対戦相手主力選手の力量と、サッカーが不確定要素の多いスポーツである以上、1失点の可能性は織り込み済みであった。ただ、どのタイミングでそれが起きてしまうのか。アディショナルタイムでの失点は正直大きなストレスとなった。しかし、ポジティブに捉えるとこれで後半も攻撃的なサッカーのまま進めるべきなのは明白になり、そもそもハーフタイムを利用して戦略の統一を図ることも安易になる。何より、一番嫌な展開は最少得点差を守ろうという意識が強くなったところで喫する失点である。

後半が始まった。失点を引きずる様子は全く見られず、攻守の切り替えはむしろペースアップ。時間の経過とともにゲーム支配は安城学園に。だがここでも時習館中心選手のグループ戦術と正しいスキルにより一歩手前で跳ね返される。この膠着した状態を打開したのはスローインからのパス展開だった。前半から展開したパスサッカーがボディーブローのように利いたのかもしれない。ミドルレンジで瞬間的にスペースが空く。イメージとアクションが見事に噛み合い、ふたかながネットを揺らす。2-1。残り6分で1点差。このあと、焦るプレーは全く無かった。前掛かりになる相手をシンプルにいなし、リスク管理をする。勝利を確信した後半アディショナルタイム、再びチャンスを得たコーナーキックでもイメージ通りのアクションとボールの軌道が調和した。きゃらが放り込んだボールは試合を決定づける3点目となった。そして試合終了。卒業した先輩たちが果たせなかった高体連トーナメントでの準決勝進出、前回苦汁を飲まされた相手にレベルアップしたうえでの勝利を果たした。対戦相手を認め、リスペクトしているからこその喜びがチームに広がる。勝利に涙する姿をこんなに見たのは久しぶりだった。

5月25日、準決勝。対椙山女学園。過去にドローや最少得点差を演じたことはあるが、それは当時の圧倒的な力量差を補うために徹底的な戦術を実行した結果だった。昨年度の高校選手権準々決勝では大雨の中、打ち合いを目指して0-4。あの頃からどこまで近づけているのか、あるいは追い越すことが出来るのか。そういう、チームとしての積み重ねを精一杯ぶつける決意の上で挑む大一番。
前半。中盤で小気味よくボールを回そうとする椙山に対し、良いリズムで対応。厳しく体をぶつけ相手がコントロールを失った瞬間に負けじと奪い、得意のパス展開に持ち込む。そうかと思えば予測のともなったポジショニングとコミュニケーションでインターセプトのチャレンジも多発。アンガクの守備にイメージの共有と積極性がみえる。オープニングシュートは安城学園。その後も再三に渡り椙山ゴールに近づく。しかし数度訪れたチャンスをモノにしないと流れは難しいものになっていく。前半29分、中盤右サイドでシンプルな展開を許し、相手中心選手へのケアが一瞬遅れたことで焦りが生じ、慌ててスライドしたところで逆サイドに展開されてしまった。必死で対応するも相手が一枚上手だった。文字通り叩き込まれて0-1。

ハーフタイムに戻ってくる表情はいつもより疲労感が濃かった。会話も少なめ。ただ、様子を見ていると後半に向けて疲労を回復したい、納得のいくプレーをしたい、そのためにとにかく体を冷やしたいという様子。2分…3分…。すると徐々にチームメートの顔を見て言葉を発するようになる。会話のトーンが大きくなる。そうだ、その調子だ。ゆあとちはるを中心に必死でサポートするベンチメンバーも一秒とて無駄にするかという動きを続ける…。

後半の失点は3つ。開始早々のドリブル突破にディレイしきれずカバーが遅れ、グループで対応できなかった。フリーキックに対しポジショニングで後手に回った。重要な場面で椙山にセカンドボールを拾われたことが展開を難しくしてしまった。後半に入り苦しい時間帯が増えるピッチ。しかしそれでも戦う選手はチャレンジし続け、ベンチから仲間が送る檄も熱を帯びる一方だった。一矢報いるべくFWの枚数を増やし、中盤の運動量を前半以上に上げる。これまで2強と戦ったときに出来なかった戦術変更。積み重ねた走り込みの成果は間違いなく力になっている。最後まで諦めず、ゲームを全うする…。そして、終了のホイッスルが鳴り響く。0-4。準決勝突破は、成らなかった。

相手との挨拶を終え、応援父母へのお礼挨拶を終えると涙がこらえきれない。無理もない。今まで果たせなかった県総体での準決勝進出を成し遂げ、もう少しで悲願に達するところまで来たのだから。
少し間をおいて再び集合。苦しいがすぐに試合分析。結果(=被ゴール)の有無にかかわらず様々なシーンの原因を明確にし共有することで〝次〟に繋がる。繋げなくてはいけない。
負けたことが悔しい。しかし自分たちの力を出し切ろうという気概は、試合終了まで存分に出せた。そのことに悔いはない。
残酷だなぁと思うのは、負けたのに総体予選が続く、ということ。最後は三位決定戦。2強の前座はちと悔しいが、決勝戦より面白かったねと言わせたい。アンガクらしさを表現できるか。勝負は続く。

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