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顧問の独り言 高校選手権を終えて。

10月25日、大会最終日。結果的にはこれまでと同じく県四強。大会を終えた今、手元に残る賞状はこれまでのモノと変わりはしない。だが、戦いに向けてこれほどまでに心を打つ時間を過ごし、これほどまでに一心不乱に全員で戦い抜いたのは…もしかしたら初めてかもしれない。そんなふうに思えるほど、本当に素晴らしい2ヶ月だった。

夏休みを終え、9月5日に顧問会議。全国高校女子サッカー選手権県大会の抽選。総体4強(カピタニオ、豊川、同朋、安城学園)にクジを引く権利はなく、8強シード校がどのヤマを引くのか、に注目は集まった。安城学園のヤマに飛び込んできたのは…至学館。U18リーグでは東海に所属しているので客観的にみると格が2ランク上、ということになる(安城学園は昨シーズンのレギュレーションによって県1部から2部に落ちている)。私は格上とか格下とかいって結果を決めつけるのが大嫌いだ。部員数や環境に違いがあれど、ピッチに立てる人数は同じ11人。やれないことは何もない。天皇杯や皇后杯でジャイキリが起きると感嘆し、ひっそりとガッツポーズするタイプの人間だ。無論、大方の予想は4強が入れ替わるかな?的な見方が大勢を占めたはず。燃える材料は、出揃った。

抽選結果を知り、〝四強に入るのって楽じゃないよね〜〟なんて明るく軽口を叩きながらも、内心は切迫感に包まれていた部員たち。だがその圧は間もなく練習の質的向上に昇華していく。トレーニングでの声の出方にもそれは如実だった。ただ黙々と取り組むことが多かった部員たちが自分達から活動を盛り上げようとした。纏う空気が活気の満ちたものに変容していった。
とはいえ全てが順調だったわけではない。リーガで訪れた松本国際では、らしくないミスで決定機を与え、トラウムU15との一戦は個の力量差を甘んじて受け入れるようなサッカーになってしまった。そしてちょうどこの時期は最大のイベント、学園祭のクラス活動にも勤しまなくてはいけない。あらゆる方面に良い表情をしなさい、というのが私の考え。意地になって立ち止まらなかった大会開幕前夜、といったところか。
10月1日には体育祭もあり、陸上競技場で実施することになった今年度は、会場の使い勝手を知る女子サッカー部にも役割が与えられ、不慣れな部員たちも運営に携わり、そしてクラスの仲間と一緒に精一杯楽しんだ。大トリの部活動対抗リレーでもガチメンで参戦。陸上部に続く第2位となり、存在感を示すことに成功笑。

そして10月11日、高校選手権準々決勝。対戦は至学館。開始直前の観客席にはこれまでにないほどの応援団。部旗を取り囲むように保護者や級友が集まった。前半開始早々はずいぶん押し込まれる時間帯になってしまったが、そこをなんとか乗り越えたのが大きかった。時折カウンターも仕掛けたが、大した決定機は創出出来ず。前半終え、互いにスコアレス。

ハーフタイムに向けて前半からの修正点と優先順位を吟味する。ベンチを預かる私のルーティン。だが稀にそれが殆ど必要ない時がある。自分達の言葉でコメントし合い、すでに修正点を明確に自覚し、言語化できている時だ。さらに全員が戦う目をしていれば、申し分ない。この日のハーフタイムのベンチは、そんな空間だった。
「今の君らの表情を見ていると、言うことは一つだけだね。〝最後まで戦い抜け〟」。

後半早々、歓喜の瞬間。ポジションを変更したナミがPAの外から低弾道のフィニッシュ。前半に無かったパターンは、敵の虚を突いた。相手GKが反応するもキャッチしにくい球筋。僅かにこぼした先に反応したのはイチカ。右足一閃、先制ゴール。
訪れた歓喜に酔い続けることなく、ピッチ内で互いに締める声。良い緊張感、高い集中力。
前半のそれと異なり、センターラインを跨ったミドルサードがその後の主戦場となった。時折、至学館の気の利いたショートカウンターに肝を冷やすがGKと両CBを中心にしてリスクを除外し続ける。無論、追加点をとりにいくサッカーを展開したが、そこは至学館も許してくれない。結局スコアはそのまま動かず、ホイッスル。1−0の勝利。
試合前に「勝って嬉し涙を流そう」と言っていたことを思い出す。四強を死守すべきという切迫感に苛まれたおよそ1ヶ月。そこから解き放たれた安堵からか、自然と涙が溢れ出した。ベンチもピッチも、そして観客席も一体となったゲームだった。

大会最終日まで試合ができる権利と引き換えに…というわけではないが、ずいぶん大勢の部員が傷んでしまった。そんな中での準決勝、対聖カピタニオ女子。それでも、部員は意気込んでいた。絶対にやってやる、と気合十分。
それにしても…凄まじく強かった。過去、両手で数えきれないほどこういうステージでカピタニオと戦ってきたがここまで翻弄されたことはなかったと思う。前半早々からカピタニオのあらゆる質の高さに振り回される展開。それでも意地を張って対応続ける安城学園。GKカナが何度も決定的シーンを防ぐ。悔しいが我慢するしかない。主体的な場面がつくれないまま、前半4失点。その前半の戦いで、さらに傷んだ部員。ハーフタイムを挟む前後で主力を一人欠き二人欠き三人欠き…プランに全く無かった初出場の1年生を起用せざるを得ない展開。そして後半3失点。計0−7でフィニッシュ。

最終日の最後の試合が、シード順決定戦。会場は総体の時と同じ、豊橋のララポルト。そして戦うは新人戦の県覇者、同朋。

試合前々日に主将ナミと副将カナ、そして攻撃の要であるイチカが戦術的な相談をしに来た。万全な体制ではないチーム状況で、それでもなんとかして抵抗できないか…。その気持ちが嬉しかった。四強の舞台で、やられるだけの試合はもう沢山だ、という反骨心の表れ。いくつかの話をし、互いに納得のいく結論を出し、チームに徹底を図っていく。
そんなプロローグがあっても、試合が始まると、やはり同朋は強い。だが戦術的な変更が功を奏したのか、あるいはそんなことすら関係ないほどアプローチし続けた成果なのか、最小失点で前半を折り返す。0−1。
後半、役割とポジションを変更。1点を取りにいく場面を作るために今まで練習してきたんだ、それをやろう、と。その私の判断のせいか、49分、52分、71分に失点を喫してしまう。だがその直後、右サイドを駆け抜けたオガが気持ちのこもったシュートを決める。1−4。私たちもこのステージで攻撃的な側面を表現できた…。広がる歓喜、と同時に、すぐ攻撃を始めたいイチカが相手ゴールに転がったままのボールを拾いに行った姿が忘れられない。
試合はその後、さらに1点を失い1−5で敗北。全力で抗い、立ち上がれないほどに出し切った。

こうして20期生にとって最後の大会を終えた。1勝したあと、2敗。実力通りもしくはそれ以上を目論むも、そうはならない現実に苦い思いをした。ただ、一つ言えるのは自分達でやれることは全て出し尽くしたということ。それは観ていた人には伝わると思う。

3年生と共にピッチに立つのは、あと2試合。どんな足跡を残せるか。最後まで、足掻く最上級生を、みてみたい。

(終)

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